台湾と香港はどちらも学生運動が選挙に大きな影響を及ぼしてきたが、台湾は李登輝元総統が時間をかけて民主化を成し遂げ、いまでは印、英、米などと価値観の共有ができるようになっているのに対し、香港は運命を香港住民では決められず、香港以外の力で決められてきた歴史的経緯があり、6月末に成立した香港国家安全維持法によって自由と民主主義が奪われた点が大きく異なる。中国は香港に対して有効な手を打ったが、台湾に対して強い手を打てないとなると、今後台湾への圧力が強まることが想定される。一強体制から最近は毛沢東に近づいているとされる習近平は、家父長制国家の延長上に覇権外交を展開し、弱いところに強く出る傾向がある。しかし、現状変更を台湾側が先にやることには米中が黙っておらず、台湾が中国の挑発に乗るのは得策ではない。蔡英文政権は慎重に対応しており、このまま落ち着いた対応を取り続ければ、中台関係は軍事衝突などの大きな問題にはならないだろう。
来る大統領選でトランプ劣勢となれば、中国に台湾進攻のチャンスがあると見る向きもあるが、米国議会は一貫して超党派で台湾を支持してきており、バイデンも台湾擁護の立場を取っている。中国の台湾攻略は厳しく、せいぜい軍事演習止まりとなるのではないか。
旧ソ連が崩壊に至るまで数十年かかったように、現時点で中国崩壊の兆候は見られず、習近平は影響力を当分保持することになるだろう。最終的には「勝てないアメリカ、負けない中国」の共存ということになるのではないか。
井尻氏は、一期目の末に再選に向けた統一地方選で大敗した蔡英文を励ました当時の香港の学生運動や、香港、台湾の学生同士の連携について解説。また、11月の米大統領選について中国は、トランプとの厳しい対立のなかで、バイデン関連の情報収集を進めているとの見方を示した。このほか、李登輝元総統との20年以上にわたる付き合いから氏にまつわるさまざまなエピソードについても言及し、李登輝の戦略的思考と実践の遺産を日本なりに活用できると示唆した。
また、ポスト冷戦・ポストコロナ世界での、日米同盟の堅持と「新日英同盟」の可能性、日中韓+ASEAN10・日EU包括的経済連携・TPPの活用、米カリフォルニア州のシリコンバレーに類義の生産拠点の早期創出、欧米・豪・印などとの「価値の共有外交」による「東西文明の融合」と「新しい世界文化」創出への寄与など、日本独自の姿勢の必要性も指摘した。